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自宅部屋の中で、ロープを前に頭を抱える男が一人。岸部ジュンペイとはもう呼べず、向井ヒロトであることを否定されてしまったナニカ。
ゆっくりと立ち上がると、鋏をとりだしてそのロープを切り始める。安い刃では簡単には切れず、ゆっくりと、じっくりと刃を滑らせていく。
そうして、ロープを切り終えた後、鋏を捨てて不敵な笑みを浮かべながら彼は夜の闇に身を溶かしていった。
朝がおとずれた後、完全に岸田ジュンペイは消えてしまっていた。この町のどこかで、別の誰かとして生きているかもしれないし、入り乱れた路地のどこかで野垂れ死んでいるかもしれない。
誰も、彼を見てもジュンペイだとは思わないだろう。
彼は、誰でもないのだから。
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