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「おはよ……」
美味しそうな匂いが、鼻をくすぐる。こんな朝を迎えるのは何年ぶりだろうかと、古都は心の中で思った。朝起きると、朝食が出来ていて、誰か人がいる。それ以上に幸せなことはない。大人になって知ったこと。
「おはよ、こーくん」
「ご飯できてるよ」と迎えられて、意識もはっきりと覚める。ここは自分の家ではない。その事実に襲われた時、目の前にいたのはあの同級生だった。
「早く食べな」
ニコッと笑う日向。エプロンが似合いすぎて、そういう感じのイクメン彼氏に見えてきた。側からみれば、普通に、格好いい。贔屓目なしに。
「これ、日向、作ったの?」
「うん」
当たり前のように並べられた朝食。幸せなのは、確かだった。しかし、何故か“嫌い”という感情に似た思いが、古都の心の底で鳥栖を巻く。当たり前のように、幸せを提供してきて、だけど、何も見返りを求めない。
そんな同級生が古都は、嫌いだった。大嫌いだった。
「いっそ……」
見下してくれればいいのにな。
ふいに口から洩れた古都の言葉は、無垢な日向の笑顔に吸い込まれていく。
いっそ、見下して嫌って離れてくれれば、こんな想いに苦しむことはなかった。いっそ、嫌いになれたら、こんな想い抱いてはいなかった。
ーーーこんな想いに、苦しむことはなかったはずだ。
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