同級生

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同級生

「先輩! 先輩! 聞いてください!!」  私、結婚することにしたんです。  後輩女優の子からこう言われ、古都は台本から視線を上げた。 「前から付き合ってる男の子と?」  すると、女の子は「はいっ!」と目を輝かせ、力強く返事をする。『……若いって力だなぁ』と、古都はまだまだ歳でもないのにそう思った。これが若さってやつか。 「先輩は、好きな人いないんですか?」 「……………え?」  可愛い可愛い後輩の質問に対して、古都は台本を思わず床に落とす。まさか、それを尋ねられるとは思っていなかった。  「大丈夫ですか?!」と、心配してくれる後輩に彼は苦笑い。 「俺の好きな人……、かぁ」 「はい。恋愛映画ばかり撮ってますけど、彼女さんとかっているんですか?」  「あるいは気になる人とか」ニヤリと笑う彼女に圧倒される古都。『女の子って本当に、恋バナ好きだよな』と、現実逃避よろしく思った。  取り敢えず、今、するべきことはこの場を凌ぐ口実を探すことだ。 「ん〜、俺は恋とかよく分かんないしな」  古都はそこまで言いかけて、ふと言葉を止める。今、頭の中によぎったのは、一人の同級生の名前だった。わざと考えないようにしていた、とある男の子の名が。 「……いるんですか? 好きな人」  ワクワクとした様子で、こちらの様子を伺う後輩。古都はそんな後輩に、完璧な作り笑顔で応じた。笑顔を作ることは、職業柄慣れている。 「いないよ」  いない。要らないーーーこの仕事に、恋心なんて要らない。古都は考えた。俳優業に恋心なんて、微塵も必要はないのだ。あるだけ邪魔なものでしょう? 「好きな人なんていない」  自分に言い聞かせるように、古都はそう口に出す。  自分に好きな人はいない。  後輩は彼のそんなつまらない回答に「そうですかぁ」と、残念そうな顔をした。 「いつか、出会えるといいですねぇ。運命の人に!」 「……そうだな」  古都は後輩の言葉に、そう応えた。本当はそんなこと、全く思っていないのに。本当は、運命など邪魔なものだとしか思っていなかったのに。
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