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「鳳さんの初恋は、いつなんですか?」
女性記者の質問に、日向は「んー」と唸り頭を抱えた。
日向自身の書いてる物語が恋愛ものなので、この手の質問をされることはよくあった。けれど、一度も日向が気の利いた回答をしたことはなかった。
『僕の初恋……、うーん、たぶん高校の時だった気がするなぁ』
日向はそこまで考えて、答えを出した。
「高校生の頃の社会科の先生ですねっ!」
そうやって笑う日向を見て、女性記者は呆れた笑みを浮かべる。「教師、ですか」と。それに対して恋愛小説家は、自信満々に頷いた。
「……勿論、その恋は叶いませんでしたよね?」
「はい! もちろん、叶いませんでしたね〜」
こりゃネタになんないな、と、思って女性記者はメモする手を止めた。恋愛小説家の初恋なんて、もっと壮大な話があると思ってたのに。
「今、好きな人はいますか?」
呆れた記者の質問に、日向は考えるふりをした。今の周りの交友関係を頭の中で整理して、「いません」と笑顔で断言する。
よくある恋した時に感じるドキドキなど、誰一人にも感じなかった。好きな人というのは、その人のことを思うだけで胸が高鳴るものだろう。日向はそう思っていた。
だけど、ひとつ不思議なことがあったとすれば、“好きな人”と言われて、最初に浮かんだのが、高校の同級生だったことだろう。あの同級生とは、高校卒業から関わりを持っていないのに。何故か、“好きな人”と言われると、彼が一番最初に浮かぶ。
女性記者は、ニコニコとしている小説家に苦笑いして、質問を変えた。
「差し支えなければお答えください。小説家になったきっかけは?」
「それはですね〜、とある同級生の一言ですね」
終始ニコニコと答えていた日向だったが、この質問をされるなり、満面の笑みが微笑となり、静かな表情になった。日向の答えを聞き、女性記者はこれ見よがしに食いつく。ネタになりそうな予感がぷんぷんだ。
「一体、どんな言葉ですか?」
食いつき気味の記者に対し、日向は口元に人差し指を当て「しーっ」と笑った。
「これは内緒です」
悪戯っ子みたいに、口角を吊り上げる小説家を見て、女性記者は「これは成長しがいがあるぞ……」と呟く。
「ん? 何か言いました?」
呟きが聞こえなかったらしく、首を傾ける日向。記者はブンブンと首を振って「なんでもないっすよ!!」と叫んだ。それから、仕切り直すようにパッとペンを手に取る。
「鳳さん、あと……六ヶ月後ぐらいにまたインタビューさせてください」
六ヶ月後という数字になんの意味があるかわからなかったけど日向は、再度、人当たりのいい笑みを浮かべ「いいですよ」と好い返事をした。
この数字の意味がわかるのは、六ヶ月後である。
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