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俳優である以上、メディアへの露出は避けられないものであった。
「久しぶり、こーくん」
正直、この状況を古都は最悪だと思っていた。古都のことを「こーくん」呼びするのは、知ってる中で一人しかいない。
「鳳さん……」
もうこれは逃げられないーーー古都は、そう悟り、大きなため息を吐いた。これは腹を括るしかないな。同級生の鳳日向と向き合う。あの頃からなんにも変わんない、遠慮がちの笑み。
何故、こうなってしまったんだろう。
密かに古都は、昨日のことを振り返った。
***
静かな自室に、電話の着信音だけが鳴り響く。古都は読んでる本を閉じて、スマホを見た。そこにはマネージャーである、西原彩華の名前が映っていた。
「はい、夜桜です」
『あっ、もしもし。古都さん!』
スマホを取るなり、甲高い大声が古都の耳を出迎える。普通に、うるさい。呆れながらも、古都は聞きなれた声に安堵した。
「どうかしましたか?」
『あー、明日なんですけど、映画の宣伝ででるバライティー番組あるじゃないですか』
「ありましたね」
『ちょ〜〜っと、急なんですけど、鳳日向さんも来ることになったらしいです』
「……は?」
『確か、古都さん同級生でしたよね〜?』と、彩華は古都に質問する。が、その質問は、古都の頭を右から左に通り過ぎていった。
何を言ってるのだ、彩華は。そんなの嘘だろう?
古都は息することも忘れて、動揺した。聞いてない聞いてない。そんなの聞いてない。鳳日向との共演なんて聞いてないーーー勿論、そんなの聞いてたら、番組なんて出なかった。だが、もうその事実を知らないまま、古都はOKしてしまった。つまり、断れない。逃げれない。
そもそも、何がちょっと急なんだ? ちょっとどころじゃない、急すぎるだろ。そんな急なこと、この世の中にあっていいのだろうか。
そりゃあ、どっちも有名人であり、演じたり書いたり、映画だったり小説だったりの面では違うが、恋愛の物語を作る者同士。こんなこともいつかあるだろう、とは薄々どこかで考えていたが、それが現実に起こるとは夢にも思わなかった。
『古都さん? 大丈夫そうですか? いやまあ、大丈夫じゃないっすよね。だって、同級生ですもんね。それは気まずいですよね。わかります』
彩華は古都の心中を察するように、控えめな口調でそう言った。古都は焦りながらも、状況を整理するーーー否、整理するもなにも、現実に告げられた真実は一つだった。
あの同級生との再会を、古都はしなければならない。
古都はすっ、と大袈裟に息を吸った。夜の冷たい空気が肺の中に充満する。頭がだいぶ落ち着いた。俳優である以上、演技は慣れている。そうだ、ヘラヘラと適当に相槌を打って笑えば大丈夫だ。何とかなるさ。古都は、そう思い、吸った分だけ丁寧に息を吐く。
ーーー神様の運命的な悪戯によって、ふたりは半端強制的に、邂逅を余儀なくされた。
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