君の好き

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 ショーケースの中で規則的に並ぶ、綺麗な腕時計たち。女性店員が時計について説明してるのを適当に流し、日向は古都の方を見ていた。  古都は物珍しそうな瞳で、時計を楽しそうに見ている。まるで、子供のようで可愛らしいな、と日向は思う。  そして、次に時計の値札に目線を移す。  高いな、素直に日向はそう感じる。時計の値札を見れば、安いので三万。最高で数十万ほどだった。記念のものだから、高いのを奮発して買いたい気持ちもあるが、高すぎると高すぎるで、普段使いできなそうで怖い。 「こーくん」  日向は、そうやって小声で古都を呼んだ。呼ばれた古都は、時計からフッと目線を外して「なんだ?」と呼び掛けに応じる。 「こーくんはさ、買うならどの位の値段の時計がほしい?」  日向の問いに、古都は不思議そうに首を傾げた。 「どの位の時計って、さっき言ったようにお金は何万でも出せるぞ?」 「あぁ、それは頼もしいんだけどさ……。でも、そんなに高い時計だと使いにくいじゃん?」 「………まぁ」  曖昧な返事に、日向は『お金持ちの家育ちのこーくんと僕では、やっぱ感性が少しズレるな』と再度実感する。きっと、古都は日向の言ったことが、あんまり理解できていない。 「買うならいくら位にする?」  感性の違いを感じながらも日向は「僕は、十万ぐらいまでがいいんだけど」と意見を伝えた。古都はその言葉に、コクンと頷く。 「……まぁ、確かにそのくらいでいいんじゃないか?」  古都の言葉を受けて「だよね」と笑う日向。買う時計の想像が段々と定まってきた。 「日常的に使えるシンプルなデザインの時計としては、ここら辺のものが人気なのですよ〜!」  全く話を聞いてなかった日向たちに気づく様子もなく、女性店員はシンプルな時計の入ったショーケースに案内してくれる。日向も、言われるがままに、視線をそちらへ向けた。 「この時計は、白と黒というシンプルなデザインで、お上品な印象を与えるんです。お仕事でも、日常的にも使えます!」  店員さんが、自信げに語る時計のこと。聞いてて『確かに、オフでも仕事中でも使えそうだな』と古都は思った。日向がどう思っているのかも気になり、そちらを見ると予期せずバチリと視線が合う。 「ん、どうしたの?」  「この時計、気に入った?」日向は目線が合うなり、そう口に出した。古都は嘘をつく理由もないので「あぁ、見た感じ気に入った」と答える。日向は「そっか」と微笑んだ。 「すみません。この時計、試着させてもらえませんか?」  女性店員に躊躇うこともなく、そう申し出る日向。古都はその様子を見て、また少し何か言いたげな歯痒い顔をする。嬉し苦しいような顔。 「試着ですね! 了解しました!」  「少々お待ち下さい」と店内のバックヤードらしき方に回っていく店員。その後ろ姿を見送って、日向はふと安堵のため息をついた。 「いや〜、案外、バレないもんだね。こーくん」  日向は、古都の被っている帽子のツバを、少し斜め上に上げて、古都の顔が見えるようにして、そう言葉を洩らした。 「確かに、意外とな」  古都もそうやって言葉を洩らす。同時に笑みも溢した。日向も、つられて口端をあげる。 「にしても、いい時計、すぐ見つかって良かったね。まだ試着してみたら、重さとか色々問題はあるだろうけど……」 「まあ、大丈夫だろ。ていうか、俺の意見ばっか尊重されてるけど、日向は欲しい時計とかなかったのか?」 「いや……僕は、特になかったなぁ。こーくんとペアルックのものだったら、なんでもいいし。こーくんが好きならいいよ」  そう笑う日向に、古都はまたなにか言いたげな顔つきをした。  自分だけが大切にされてる感覚、その感覚が古都には歯痒くて堪らなかった。すべて貰ってばかりな気がした。でもそのことを口に出す勇気はなく、口を閉じる。言っても「そんなことないよ」と日向は笑うだけなような気がした。  古都はなんとも言えずに、代わりに茶化すような言葉を吐く。 「……なら、鍵もペアルックだからそれで、良かったんじゃないか」 「いやいや、それは意味が違うじゃん!」 「そっか、ごめんごめん」  にやにやとそう言って古都は笑う。明らかに悪意のある“ごめんごめん”である。日向はそんな古都に向かって、わざと大袈裟に「はぁ」とため息をついた。それから、とっても幸せそうに微笑んだ。 「試着品、持ってきましたよ!」  ニカッと満面の笑みで、試着用の時計を持ってきた女性店員。その店員の目に映ったのは、仲睦まじく愛おしげに互いを見つめる日向と古都だった。
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