君の好き

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「買うもの買えたね!」  「まさか今日中に、ベットも買えちゃうとは思わなかったよ〜!」と、嬉しそうに話す日向を見て、古都の顔も思わず綻んだ。  ベッドも他の生活用品も買えて、満足な日向と古都は家に帰るため、駅へと向かっていた。 「業者さんにも頼めたし、数日後にはもう普通に生活できるね」 「そうだな」  にっこりと微笑みを浮かべる古都を見て、日向は不安そうな顔になる。 「…あのさ、大丈夫? こーくん、ほんとに、テンション低いよ?」 「それさっきも言ってたぞ。別に普通だよ」  不思議そうな顔をする古都の瞳を、まじまじ覗く日向。 「いや、本当にどうかした?」 「なんで?」 「ずっとなんだか言いたげな顔してるよ。何かあった? 本当に本当に大丈夫?」  古都は日向のその発言を聞いて、目を見開いた。どうやら、日向には最初から全てわかってたらしい。目敏さに、ため息すらつきたくなる。表情を作ることにおいては、そんじゃそこらの人達には負けないと自負していたのだけど。 「大丈夫? 何かあったらすぐに言ってね」  慌てながらそう言う日向に「そういうところが……」と古都は小さく呟いた。その言葉をたとえ慌てていても、日向は聞き逃ししなかった。ただ口を閉じて、その言葉の続きを待つ。 「そういうところがーーー日向のそういうところが、ヤダ」  小さな小さな古都の声に、日向は「え」と驚きを洩した。恋愛小説を書いてきたある意味恋愛のプロの日向でも、この事態は予想外。自分のことのなるとやはり、手が届かない。思考が行き届かない。 「そ………、そういうところって、どういうところ?」 「日向ばっかりが我慢するところ。……なんか、おんぶに抱っこされてる気分。任せっぱなし、もらってばっか、なんにも出来ない。俺の意見ばかり、日向は遠慮してばかり」  「そんなのイヤ」と。古都は小さな声で、だけど、芯のある強さでそう言った。その声は、日向の耳まで、心まで、ちゃんと届いた。 「…そっか、ごめんね。こーくんも、もらってばっかじゃ嫌か」  何故、気付かなかったんだろうか。日向は、心の中で自分に問う。もらってばかり、頑なに何もやらせてもらえない、甘えてばかりで嫌になるのは誰だって一緒だろうに。  何故、こんなにも気付けなかったのか。分からなかったのか。こんなに大事な人を傷つけていたことに。  日向は自分の情けなさを、また実感した。悲しそうな顔をしている恋人を見て、日向も悲しい気持ちになった。ごめんね、って泣き出してしまいたかった。  だけど、ここで悲しい気持ちに呑まれてしまったら、だめだと思った。だから、言った。声に出したーーー自分の意思を。泣き出す前に。 「確かに、僕、こーくんを大事にしたいあまりにかえって傷つけてた。本当に本当にごめん」  「だけどーーーだけどね」と、日向は、悲しみを堪え微笑んで言葉を続ける。 「僕は我慢なんかしてないよ。遠慮もしてない。こーくんからすれば、我慢に見えることも、僕は我慢だなんて思ってないから」  日向の優しい微笑みに、古都の瞳が潤んだ。そして、輝き、静かに揺れる。日向も同じように、瞳を輝かせた。  ふたりを太陽が包む。  日向は笑った。 「だって、どうしようもないぐらい、好きなんだもん、こーくんのことが。こーくんのこと、好きだから、僕だって、こーくんが好きって言ったものを、好きになれる自信がある。こーくんの意見に、全力で共感できる自信があるもん」  「君の好きは、僕の好きなんだよ」と、日向は、強く、だけど優しく、愛おしそうに古都を見て言った。  古都は、その言葉を聞いて、目をまんまるする。それから、楽しそうに笑った。 「“君の好きは僕の好き”、か」  先程までの憂鬱な表情の面影もない楽しそうな笑いに、日向はぽかんとする。 「え? 何? さっきの発言そんなおかしかった?」 「いや……、俺もだよ」 「え?」 「俺も日向の好きは、好きになれる自信がある」  そう言う古都に日向は、ただ恥ずかしそうに「そお」と口に出した。そして、古都の顔を見る。古都は喜色満面の笑みをたたえていた。 「うん。やっぱり、そっちの方が似合ってるよ」  愛しむように日向は、目を細める。そして、古都の頬に優しく手を添えた。たとえ言葉がなくても、古都に日向の思いは伝わった。日向は笑う。その笑みを、古都の瞳ははっきりと捉えた。 「日向も笑顔がお似合いだ」 「……そだね」  二人は視線を交わして、また笑い合う。その笑みは、太陽に負けないくらい輝いてて、この世界のどこよりも、幸せな笑みであった。 Fin♡
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