同級生

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「まぁ、久しぶりじゃのぉ。古都ちゃん! また一段と別嬪さんになったのぉ」  こうやって、古都を笑顔で迎えてきたのは、日向の母の鳳千紗子だった。千紗子の第一声に、古都は『高校の頃から変わんないな』と安堵する。勿論、これはいい意味で。 「日向も小説読んどるよ〜。東京で元気でやれとる?」  千紗子にこう言われて、日向は「元気でやっとるよ」と笑った。なんと、ほのぼのした光景だろうか。そんな親子のやりとりには入れず、古都は空気になることに努めていた。邪魔しちゃあ悪い。 「古都ちゃん、いつもありがとのね。うちの日向がすまんのぉ」  半分空気化していた古都に対し、突然、話は振られる。古都は「全然、こちらこそ助かってますよ」と言った。八割方は、心からの言葉ではない。高校卒業以来、全然、会っていなかったのだから。高校以来の思い出なんて無に等しい。 「そうそう、こがいな家でよかったら何週間でも泊まりな」  千紗子の方言まみれの言葉に一瞬古都は戸惑う。『“こがいなっ”て何?』古都の思考が止まる。そんな言葉知らない。 「え、っと……」 「“こがいな”は、こんなって意味だよ」  広島弁がよくわかんない古都に、助け舟を入れたのは日向だった。ニコニコ優しい笑顔で、そう囁く。  「ありがとう」と古都は笑う。いかにも自然体。作り笑顔じゃない笑顔。古都の笑顔を見て、日向の心の中が、ぽっと温まる。何故、こんなにも心があったかくなるのかは、わかんなかった。こんな感情、誰にも抱いたことがない。しかし、日向はあんまりこの温かみについて、深く考えなかった。きっと、久々に会ったからだろう。 *** 「荷物、そこら辺に置いちゃっていいよ」  「どうせ、僕とこーくんしかこの部屋で生活しないから」と、日向は言う。古都は、そう言われようと、きちんと揃えて、荷物を隅に置いた。  ちらりと、部屋の全貌を見ている古都に、日向は 「高校の頃から全く変わってないでしょ?」  と、何故か自慢げに言った。  確かに、古都は、高校時代に何回か、日向の実家へ来ていた。というのも、日向は、高校の頃に東京に、引っ越してきたのである。実家には、日向の祖父母がいたが、一昨年ほどに亡くなったため今は、母親ーーー千紗子が、住んでいる。 どこに座ろうかと悩んでる古都を見て、日向は穏やかに微笑む。 「遠慮しないで、くつろいでいいよ〜」 「くつろぐって言われても、どうせ日中は仕事だし。あんまりこの家にいないよ」 古都が、日向の家を使うのは寝る時と朝だけだ。 「あはは。俳優はお忙しいそうですね」 『まぁ、僕は締め切りがギリッギリだけど』と、笑いを浮かべながら、日向は、次の原稿の締め切りを思い浮かべた。スケジュール管理が、グダグダな日向は原稿を貯めがちなのである。  もうそろそろ、編集者から催促のメールが来るだろう。
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