『自覚』そして『逃げ』

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「こーくん! 起きんさいな」 「……………」  日向の声かけに、ピクリとも反応する素振りも見せない古都。「もぉ」と日向は思わず、不満の声を洩らした。 『これ以上言っても、こーくん、起きないよねぇ……』  高校まで一緒だったので、大体、古都のことは知っている、つもりでいる。きっと、これはもう起きない。日向は、古都を起こすのを諦め、朝食作りに取り掛かった。  古都は昔から、ずっと、和食が好きだった。それを知っている日向は、早速、卵焼きを作る。古都は、砂糖多めの甘い卵焼きが好きなのでレシピより砂糖を、少々、多くした。甘い卵焼きを食べると、彼はいつも嬉しそうに目を細めるのだ。その姿がなんとも愛らしい。  それから、メインに取り掛かる。今日は、鰤の照り焼きにしようと考えた。ちょうど、日向の母である千紗子が、昨日作ったものの作り置きがあると言ってたので。  手際良く、ぶりを温め、作り置きのタレをかける。そのあとチャッチャと形など揃えて、完成だ。 『めっちゃ簡単だけど、満足してくれるかな?』  と、日向は、古都の顔を脳内で浮かべて思う。わざわざ、早起きして作ってもらった朝食を前に、古都が、文句を言う権利があるのかは置いといて。日向は、不安を今ここで抱いても仕方がないと、そっと頭の隅に置き、味噌汁の準備に取り掛かる。 「具は何にしよう?」  独り言を呟いてから、日向は、大根へと手を伸ばす。お味噌汁って言ったらこれしかない。薄く切り、火の通りをよくした。それから、大根といえばワカメとでも言うように乾燥わかめを取り出す。たっぷり水を入れて、乾燥していないワカメの状態に戻す。そこまでして、日向は一息ついた。  油揚げも、適切な大きさに切り次に昆布から出汁を取る。わざわざ出汁を取るなんて本格的。『やっぱり、鰹節にしようかな……』と、日向は昆布を手に取り考える。面倒臭いし、時間がかかる。だけど、意外と十分時間はあった。  日向は、昆布と向き合い、昆布を固く絞った布巾で拭いた。朝は昆布の優しい味わいの方がいいよな。そう考え直したのである。  鍋に水を入れて沸騰直前に昆布を取り出す。そして、薄く切った大根を入れてもう一度蓋をする。適当な時間に油揚げ、そしてわかめを加えて少し煮たら、味噌を溶かし完成……、となった。   最後に、冷凍ご飯を電子レンジに入れる。そして耐熱のお茶碗を出す。初めは、ラップで、次はお茶碗という二度手間を日向は嫌な顔をせずこなす。そっちの方が、ふっくらするのだ。 「よし、できた!!」  日向は自慢げに胸を張る。思わず、口から洩れた言葉に、反応する声がひとつあった。 「おはよ……」  この声を聞くなり、心臓が飛び跳ねる感覚を、日向は身をもって実感した。
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