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海風
やがて服がびしょ濡れになって、潮風が涼しい浜辺上の階段で座っていると、彼女が僕にジュースを渡してくれた。
どうやら奢ってくれたらしい。
「いいの?」
僕が聞くと、彼女はジュースに口をつけながらコクリとうなずいた。
僕はジュースを開けると、口をつけて飲む。
甘酸っぱい、オレンジの味だった。
「もう帰る?」
僕が一度、ジュースから口を離して言うと、彼女は暗い顔をした。
「……私は……いいかな」
彼女のそんな顔を見たのは、初めてだった。
「……? どうかしたの?」
僕が聞くと、彼女は僕の隣に座り込み、話し出す。
「……両親が喧嘩してて……ね
私、引っ越さなきゃいけないらしくて」
彼女は愛想笑いで笑った。
「……そっか」
僕は何も言えなかった。
なぜなら、人の家庭環境なんかに僕は口出しできる立場じゃないからだ。
「じゃあ私そろそろ帰らなきゃ」
彼女は笑って立ち上がった。
その笑顔はなんだか、引きつってるように見えた。
「またね」
そう言われて手を降る彼女に、僕は手を振り返すことしかできなかった。
彼女と別れた僕は、祖母の家へと帰るのだった。
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