落下した十九の冬

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そういえば、どうして奏人は外山くんの話を振ってきたのだろう。 セックスへとなだれ込んでしまって、外山くんの話は一瞬で消えた。 思うに、奏人と会話を成立させることは難しい。 考えていることが読めない。 読めないから、深みに嵌まっている気がする。 奏人がもっとわかりやすかったら、私はこんなに馬鹿にならずに済んだのではないだろうか。 ―――大学一年の春。 入学式の三日前、私は友達に連れられて原宿へ来た。 「ピアススタジオでピアスを開けたいけれど、ひとりじゃ怖いからついてきて欲しい」と頼まれた。 テレビで見たとおりの風景。 思ったより奇抜なファッションの人は少ないけれど、それでも私の地元と比べたら色とりどりで見ているだけで楽しかった。 お上りさん丸出しできょろきょろしながら下り坂を歩いていると、背後からジャラジャラと金属のぶつかり合う音と大きな足音が聞こえた。 反射的に振り返ると、この世の何もかもが気に入らないような顔をした男の人がいた。
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