落下した十九の冬

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次にその人を見たのは、大学の入学式だった。 こんな偶然があるのかと目を疑ったけれど、あれだけ瞼に焼き付いた人を見間違えるはずがない。 うるさいくらいに胸が騒いだ。 金髪に真っ黒なスーツを合わせたその人は、誰よりも目立っていた。 三日前に見かけたときにはなかった、小鼻に空いた小さなピアス。 そしてやはり不機嫌そうな顔。 何が気に食わないんだろうと思いながらも、目が離せなかった。 入学式が終わると、その人の周りには数人の友人が集まっていた。 「奏人、鼻にもピアスあけたの? それって鼻かむときとか、不便じゃね?」 「さすが藤代」 「サドなのかマゾなのか、奏人はよくわからん」 不機嫌そうな顔を少しだけ崩し、その人は不敵に笑った。 その笑い方も、少し気崩したスーツも、入学式だというのに落ち着いている様子も。 何もかもが周囲の人とは違い、まるで別世界の生き物に見えた。 その人からは三日前と同じ甘い香りが漂い、私は胸のなかで藤代奏人という名前を反芻した。
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