落下した十九の冬

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構内で見かける奏人は、いつも人に囲まれていた。 奏人は口数が多いわけではないし、ニコニコとしているわけでもない。 それでも、どことなく輪の中心にいるように見えた。 その輪の中には女の子もいた。 彼女は奏人と同じようなファッションで身を包み、奏人をぺたぺたと触り、わざとらしく大きな声で甘えるように「奏人、奏人」と呼んだ。 人形のようにかわいらしいピンク髪の女の子に、嫉妬は抱かなかった。 まったく何も感じなかったと言えば嘘になるけれど、嫉妬とは少し違った。 私にとって奏人は芸能人のような、漫画のなかのキャラクターのような存在であって、嫉妬するとかしないとか、そういう次元の存在ではなかった。 話しかけようだとか、自分を知ってもらいたいだとか、そういうことも思わなかった。 私はそのピンク髪の女の子が彼女だと思った。 けれど翌週にはピンク髪の女の子はいなくなり、代わりに茶髪のガーリーファッションの女の子が奏人の隣にいた。 そしてその翌週には茶髪の女の子がいなくなり、代わりに黒髪のハイブランドで身を固めた女の子が奏人の隣にいた。
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