落下した十九の冬

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やり取りはとても事務的でシンプルなものだった。 それでも心は躍った。 奏人が私の名前を知った。 奏人が私にメッセージを打った。 奏人が私の学生証を持っている。 ひとつひとつの事実に胸を焦がす。 何度も何度も奏人からのメッセージを眺めては口元を緩ませ、ベッドの上で脚をバタバタとしてのたうち回った。 この当時、私は奏人が学生証を拾ってくれたことを誰にも話さなかった。 奏人は友達の間では藤代バカトと呼ばれ、屑でダメで最低な男の代名詞だった。 話したところで悪口を聞かされるのは目に見えている。 軽率な悪口なんかで奏人と接点が持てたという奇跡を穢されたくなかった。 翌日、昼頃に奏人から学生証を受け取ることになっていた。 いつもの倍の時間をかけて丁寧にメイクをし、私にしては珍しく髪を巻いた。 普段からもっと気を配ったり、努力をしていれば良かった。 奏人の隣にいた女の子達と比べ、垢抜けていない自分を恥じた。 十二時になり、そわそわしながらスマートフォンを開くと、奏人から『大学が終わったら、S駅の俺のアパートに学生証を取りに来て』とメッセージが入っていた。
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