落下した十九の冬

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最初は風邪でもひいて休んだのかと思った。 けれどメッセージには体調不良とは一言も書かれていない。 それにそうだとしたらアパートに招くのではなく、日をずらすだろう。 アパートへ来るか、来ないか―――自分が奏人から試されていることに気が付いた。 奏人のアパートに行くということが、どういう可能性や意味合いを含んでいるかは、もちろんわかっていた。 もし同じことが友達に起きたら、きっと私はアパートへ行くことを止めるだろう。 学生証は別の日に大学で受け取ればいいとか、アパートに行くのはやめた方がいいとか、そういった正論を口にして。 何が正しくて、何が間違っているかは明白だ。 それでも、正論は感情という大きな波に呑まれた。 奏人に近付きたい。 これを逃してしまったらきっと次はない。 見ているだけでよかったはずが、欲が出た。 講義を終えた私はS駅へと向かった。 奏人を目の前にして、動揺しないでちゃんと話せるか。 今日の下着は上下セットだったか。 揺れる電車のなか、そんなことを考えた。 これが私の馬鹿の始まりだったのだと、今ならわかる。
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