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『S駅に着いた』と送ってからの奏人の返信は、やはり早かった。
送られてきたアパートまでの道順はわかりやすく、方向音痴の私でも迷うことなくアパートに辿り着いた。
今にして思えば、きっと何度も女の子を招いているから説明が上手かったのだろう。
そんなことにも気がつかないくらい、当時の私はいっぱいいっぱいだった。
アパートの階段を上がる脚は震え、冬だというのに背中は汗ばんだ。
チャイムを鳴らして少し待つと、上半身裸で髪の濡れた奏人が出迎えた。
ジーンズは履いているけれど、それでも目のやり場に困る。
「いらっしゃい、理香ちゃん。
シャワー浴びてたから、すぐに出られなくてごめんね。上がって」
奏人は薄っすらと笑みを浮かべ、とても自然に理香ちゃんと呼んだ。
私を覗き込むような瞳に胸を貫かれる。
目の前のことを受け止めきれず、頭がくらくらした。
動揺を悟られないよう、私は精一杯「普通」を演じる。
部屋のなかは散らかっているわけでも、整然としているわけでもなかった。
ちょうどその中間くらい、住んでいる人の生活が見える空間。
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