落下した十九の冬

9/34
前へ
/435ページ
次へ
『S駅に着いた』と送ってからの奏人の返信は、やはり早かった。 送られてきたアパートまでの道順はわかりやすく、方向音痴の私でも迷うことなくアパートに辿り着いた。 今にして思えば、きっと何度も女の子を招いているから説明が上手かったのだろう。 そんなことにも気がつかないくらい、当時の私はいっぱいいっぱいだった。 アパートの階段を上がる脚は震え、冬だというのに背中は汗ばんだ。 チャイムを鳴らして少し待つと、上半身裸で髪の濡れた奏人が出迎えた。 ジーンズは履いているけれど、それでも目のやり場に困る。 「いらっしゃい、理香ちゃん。 シャワー浴びてたから、すぐに出られなくてごめんね。上がって」 奏人は薄っすらと笑みを浮かべ、とても自然に理香ちゃんと呼んだ。 私を覗き込むような瞳に胸を貫かれる。 目の前のことを受け止めきれず、頭がくらくらした。 動揺を悟られないよう、私は精一杯「普通」を演じる。 部屋のなかは散らかっているわけでも、整然としているわけでもなかった。 ちょうどその中間くらい、住んでいる人の生活が見える空間。
/435ページ

最初のコメントを投稿しよう!

200人が本棚に入れています
本棚に追加