ビー玉は蜂蜜色

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「外山くんの眼で、世界を見てみたいな」 外山くんの絵を目の前にした私の唇から、不意に言葉が零れた。 おかしなことを言ってしまったかもしれない。 外山くんに聞こえていませんように、と祈りながら振り返ると、外山くんはカーテンを閉める手を止めて口を開いた。 「どうして、そう思うの」 「多分……ううん、きっと外山くんと私のものの見え方って違うんだろうなぁと思って。 あ、もちろん悪い意味じゃないよ。そうじゃなくて、ええと……」 そう言いながらみるみる顔を赤らめていく私に、外山くんはちいさく笑った。 やわらかくて、控えめな笑顔。 外山くんの絵と同じ。 ゆっくりと胸に染みこんでいく。 外山くんが見せてくれた直径三十センチほどの丸いカンバスの上には、みずみずしい白桃の実のような桃色や、やわらかな象牙色の花びらが重なり、春の絨毯(じゅうたん)が織られていた。 ガラスビーズのようなちいさな粒が春の川面のようにきらめき、筆にのせられた絵具はカンバスの上で生き生きと踊っている。 よく見ると花びらの下にはグレーや水色、様々な色が積み重なり、深みを増していた。 春の陽射しや、かぐわしさ。 春風にはためく儚さ。 一つのカンバスのなかにすべてが詰まっている。 外山くんの眼をフィルターとして世界を見たら、私が知らなかったものが見えるような気がした。
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