200人が本棚に入れています
本棚に追加
「丸いカンバスなんてあるんだね」
「花梨がたまには丸で描いてみたらって言うからやってみたけど、いつものカンバスの方が描いていてしっくりくる」
気分転換にはいいけど、と外山くんはイーゼルの端を撫でた。
まるで慈しむように。
「このビーズみたいな粒は? 貼り付けたの?」
「それはメディウムっていって、アクリル絵具に混ぜて使う下地があるんだけど、その一種。
ほかにもツヤを出したり、盛り上げたりするメディウムがあって、それを使うといろいろな表現が出来て……って、ごめんね。
こんな話、おもしろくないよね」
「ううん、楽しいよ」
いつもより少しだけ雄弁になる外山くん。
もっと聞いてみたい。
「涼宮さんも、描いてみる?」
「えっ……私、絵とか下手だし、こんなふうに描けないよ。
せっかくの画材が無駄になっちゃうよ」
大きく首を横に振ると、外山くんは絵具を差し出した。
ラベルにはフィンガーペイントと印字されている。
「筆じゃなくて手や指に絵具をつけて塗っていくんだけど……これだったらどうかな」
外山くんはパソコンでフィンガーペイントがどういうものか見せてくれた。
ちいさな子どもから大人まで、手指を絵具だらけにして画用紙やカンバスの上に色を広げ、楽しそうに笑っている。
背丈よりも大きな画用紙に数人で合作している人たちや、手指だけでなく足を使っている人もいる。
うねる曲線、ぺったりと押された手形、指先で散りばめられた水玉、稲妻のように走るライン。
それはとても自由な世界に見えた。
最初のコメントを投稿しよう!