ビー玉は蜂蜜色

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「丸いカンバスなんてあるんだね」 「花梨がたまには丸で描いてみたらって言うからやってみたけど、いつものカンバスの方が描いていてしっくりくる」 気分転換にはいいけど、と外山くんはイーゼルの端を撫でた。 まるで(いつく)しむように。 「このビーズみたいな粒は? 貼り付けたの?」 「それはメディウムっていって、アクリル絵具に混ぜて使う下地があるんだけど、その一種。 ほかにもツヤを出したり、盛り上げたりするメディウムがあって、それを使うといろいろな表現が出来て……って、ごめんね。 こんな話、おもしろくないよね」 「ううん、楽しいよ」 いつもより少しだけ雄弁になる外山くん。 もっと聞いてみたい。 「涼宮さんも、描いてみる?」 「えっ……私、絵とか下手だし、こんなふうに描けないよ。 せっかくの画材が無駄になっちゃうよ」 大きく首を横に振ると、外山くんは絵具を差し出した。 ラベルにはフィンガーペイントと印字されている。 「筆じゃなくて手や指に絵具をつけて塗っていくんだけど……これだったらどうかな」 外山くんはパソコンでフィンガーペイントがどういうものか見せてくれた。 ちいさな子どもから大人まで、手指を絵具だらけにして画用紙やカンバスの上に色を広げ、楽しそうに笑っている。 背丈よりも大きな画用紙に数人で合作している人たちや、手指だけでなく足を使っている人もいる。 うねる曲線、ぺったりと押された手形、指先で散りばめられた水玉、稲妻のように走るライン。 それはとても自由な世界に見えた。
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