ビー玉は蜂蜜色

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私はパレットの上でぺかぺかと照っている紫色の絵具に手をのばした。 二本の指先を、そっとおろす。 ひんやりと、ぺたりと、指先が紫に染まる。 なんだかちょっと、いけないことをしているような。 好奇の塊りが、こみ上げてくるような。 そんな想いが募る。 一メートルほどの、まっさらな画用紙。 最初は遠慮がちに隅っこに。 徐々に大胆に中心に。 何色にも染まっていなかった画用紙に、紫、赤、青、白、黒――様々な色を、指先で滑らせていく。 画用紙の上で混じり合った色と色は新しい色を生み、重なりあった絵具の丘陵(きゅうりょう)に指を滑らせて弧を描くと、砂紋(さもん)が広がった。 計算も計画もなく広がっていく世界。 気がつくと私は椅子から立ち上がり、ただただ目の前の世界を彩っていた。 十本の指先、手のひら、指と指の間、爪と皮膚の間。 ぺたぺたと、ぬるぬると。 すべてが染まっていく。 無心になる心だけが、何色にも染まらない。
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