ビー玉は蜂蜜色

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ふぅ、と一息つくと、いつの間にか背後にいた外山くんが画用紙を覗き込んだ。 「このぐるぐるしてるの、かわいい」 外山くんの口から静かに呟かれた「かわいい」はとても新鮮で、自分がかわいいと言われたわけでもないのに、なんだか私は恥ずかしくなった。 「フィンガーペイント、どうだった?」 「すっきりした」 額に小さな汗を浮かばせて笑うと、外山くんも笑ってくれた。 まるで真っ暗闇から白い砂浜へ飛び出したように視界が開けた。 頬をかすめながら流れていく空気も、さらさらとした砂浜も、私を(とら)えたりはしない。 裸足でその砂を踏みしめ、指の間を流れる砂の感触を、砂浜を照らす太陽の香りを、ただ感じていればいい。 ゆき乃ちゃんの顔をしたゆきちゃん先生は、もういない。 「外山くん、ありがとう。 指で描くのって楽しいんだね。なんだか、子どもの頃に戻ったみたい」 そう言ってから、私は外山くんの前では子どもみたいなところばかり見せていることを思い出した。 涙も鼻水も、貸してもらったコートにくるまって寝ている姿も、嘔吐している姿までも見せてしまった。 食事だって、外山くんは食べたいと言ったものをつくってくれる。 絵を描く前から――最初から、外山くんの前では私は子どもだったのかもしれない。
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