ビー玉は蜂蜜色

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眼を爛々とさせている子ども(わたし)に、外山くんはもう一枚まっさらな画用紙を出してくれた。 さっきよりも一回りほどちいさい画用紙。 「外山くんは、やらないの?」 本棚の整理に戻ろうとする外山くんを引き止めると、不思議そうな顔で振り返られた。 「外山くんが描いているところを見てみたい」 子どもな自分を自覚したせいか、悪夢からの解放感のせいか。 私はひどく素直になっていた。 過不足なく、思ったことがそのまま唇から滑りおりていく。 絵を描くのとはだいぶ違う気もするけれど、外山くんがどんなふうに、どんな表情をして絵具に触れ、指を動かしていくのか見てみたい。 「見たって別に、おもしろくないと思うけど」 「そんなことないよ」 思ったよりも大きな声で言ってしまった。 外山くんは少し驚きつつも「じゃあ、やろうかな」と言って、シャツの袖をまくりながら私の正面に回った。 洗いざらしのシャツから骨張った手首が現れ、指先がパレットにのばされる。 するすると画用紙の上を滑っていく赤い指先。 螺旋を描き、火花を散らし、白色と混ぜては桜の蕾を開花させていく。 その指先をゆるりと追う鳶色の瞳は、朝露のように澄んでいた。 「――涼宮さんも、やろうよ」 朝露の瞳に私が映る。 息をのんで眺めてしまっていた。 私は慌てて絵具を指先にとる。
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