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壁に掛けられた年季の入ったライダース。
半分ほど残っている檸檬色の香水。
真鍮のトレーに無造作に置かれているピアス。
端々に奏人の欠片が散らばった部屋は分厚い黒のカーテンで閉ざされ、薄暗かった。
「はい、学生証」
「ありがとう……」
学生証を手渡すと奏人はベッドに腰を掛けた。
上半身に何か羽織る様子もなく、タオルで髪を乾かし始める。
すぐそばに私がいるのにも関わらず、まったく私の方を見ない。
小声で鼻歌を口遊み、気持ちよさそうに瞼を閉じて髪を乾かす。
きっと私が奏人を見ても気付いたりはしない。
少しのスリルを胸に、視線を動かす。
伏せられた長い睫毛に、水滴で濡れた耳のピアス。
左耳の拡張されたピアスホールは近くで見るととても大きい。
どれくらいの歳月をかけてこの大きさにしたのだろう。
私の指なんて余裕で通せそう。
拡張するときの奏人は、どんな顔をするのだろう。
奏人はまだ瞼を伏せたまま髪を乾かす。
調子に乗ってしまった私は奏人の躰に視線を移した。
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