ビー玉は蜂蜜色

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「そういえば、外山くんにはいないの?」 「いないって?」 「花梨ちゃんにとっての、たぁくんさんみたいな……好きな子とか」 「……いないよ」 とても短い。けれど、確かな()を空けてから外山くんは答えた。 赤と紫の絵具が、褐色の指先で渦巻かれていく。 「そっか。外山くんはやさしいから、外山くんに好きになってもらえる子は幸せだね」 私は芽衣子から聞いた外山くんの話をすっかり忘れて言った。 やさしくない外山くんを想像することが出来ない。 外山くんは、いつだってやさしい。 私にだってこんなにやさしいのだから、きっと好きな子をとても大切にする。 その子が好きなお茶を淹れ、その子が何かに怯えてにいたら、大丈夫だよ、と包み込んでくれる。 そういうことが自然にできるひと。 「いない方がいいよ、そんなひと」 ぽつりと、外山くんは言った。 投げやりに、弱々しく、(もろ)く――壊れそうに。 さっきまでの朝露の瞳は、もう乾ききってしまっていた。
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