ビー玉は蜂蜜色

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ブレーキの効かなくなった五本の指は、褐色の左手の指を広げるように指と指の間に入り込んだ。 交互に絡んだ指が、ぬるりと深く交わる。 すべての神経が右手に集まったかのように、節くれた指の微細な反応が伝わってくる。 ぴくりと反応する親指。強張る中指。 指のつけ根に薬指が触れ、私は思わず肩を震わせた。 重なる指、重なる体温、重なる視線。 オレンジ色の照明をうけた鳶色の瞳は、蜂蜜色のビー玉のようにきらめいた。 透明にきれいな、ビー玉の瞳。 「ごめん、涼宮さん……!」 大きな手は勢いよく引き抜かれていった。 絵の具はぱたぱたと飛沫し、いつも冷静でいつも穏やかな顔は赤く染まっていた。 たっぷりの絵具の塊りと、大きな手の感触だけが残される。 私は立ちつくし、慌てる外山くんの姿をぼんやりと視界で捉えた。 躰を流れるすべてのものがふつふつと熱くなり、胸は詰まる一方で、言葉がすぐに出てこなかった。 外山くんが二回目の「ごめん」を言ったあと、やっと口が動いた。 「謝るのは外山くんじゃなくて、私の方だよ。ごめんなさい。 手が滑っちゃって、それで……わざとじゃなくて、事故で……」 「大丈夫、わかってるから」 「……ごめんなさい」 それはほんのわずかな、一瞬の出来事だった。 けれどその感触も、その瞳も、絵具の香りに混じった外山くんの香りも、しばらく私の記憶から離れなかった。
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