金木犀とオレンジと犬

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金木犀とオレンジと犬

ティッシュで体液を拭う姿は、絶対に見られたくない。 躰も欲望も晒しあった後でも、見られたくない。 「お願いだから絶対に、絶対に、こっちを見ないでね」と言うと、奏人(かなと)は覗き込んで嗤った。 とても(たの)しそうに。 奏人は、よくわからない。 藤代(ふじしろ)奏人(かなと)という人間はよくわからないし、わかろうなんて思ってはいけないのかもしれない。 そんな思い、奏人にしてみればきっと(わずら)わしいだけだろう。 躰を重ねることと相手に心を許すことは、決してイコールでは結ばれない。 もしイコールで結ばれるとしたら、奏人は数えきれないほどの女の子に心を許したことになる。 誰も奏人に心を許してもらえるわけがない。 例に漏れず私も――きっと一生、心を許してはもらえない。 どんなに唇を重ねても、どんなに肌を重ねても。 心と躰は真逆のところにある。
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