それは見世物小屋

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「外山くんはこういうところ、花梨ちゃんとよく来るの?」 「たまに。花梨の誕生日や、成績がよかったときなんかにねだられる」 外山くんは私のようにお店の雰囲気に気圧(けお)されていなかった。 手触りのよさそうなチャコールグレーのニットも、つやつやとした黒髪も、この空間にきれいに溶け込んでいる。 外山くんの静謐(せいひつ)さは、どこにいても様になる。 外山くんなら、漢服なんかでも着こなせそう。 「中華だから、お団子?」 突然、外山くんが言った。 目を丸くしていると「ほら、髪の毛」と付け足された。 外山くんの言うとおりだった。 中国式のアフタヌーンティーに合わせて、めずらしく髪をシニヨンにまとめてきた。 不器用な私は「五分で出来る、簡単こなれシニヨン」という動画を見ても十五分以上かかってしまった。 いや、ニ十分以上かもしれない。 「髪、おかしかったかな……」 「おかしくないよ。大丈夫」 ちいさく、やさしく、微笑まれる。 外山くんの「大丈夫」には、どうしてこんなに安心できるのだろう。 同い年なのに、もし私にお兄ちゃんがいたらこんな感じなのかな、と思ってしまう。
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