それは見世物小屋

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「涼宮さんのお茶、そろそろいい頃じゃないかな」 ティーポットを覗き込む。 淡い琥珀色のお茶の中で、花びらはふんわりと広がっていた。 ジャスミンの香りがやさしく漂う。 「このお茶、すごくいい香り。 そういえば外山くんは紅茶の淹れ方、誰から教わったの? いつもすごく美味しいけど」 「ああ、母親から」 「そうなんだ。じゃあ、外山くんのお料理も」 「うん、母親から」 はじめて外山くんの口から母親という言葉を聞いた。 どことなく、他人を指すような、他人事のような素っ気なさ。 「大丈夫」と言ってくれるときとは、まったく違う。 やはり外山くんのお家には、何か事情があるのだろう。 他人が踏み込んではいけないような、何かが。 ちらりと視線をやると、鳶色の瞳は私をじっと見つめた。 「涼宮さんの実家はどこ?」 「え、実家……」 「そういえば聞いてないと思って」 「私の、実家は……」 「うん?」 「……だ、ださいって言われる県」 蚊の鳴くような声を絞り出すと、外山くんは笑った。 俯いたり隠したりせず、しっかりと声に出して、顔を見せて笑った。 無邪気で、少し幼くなる顔。 ゆるやかな風に乗る、いつもより少し高い声。 笑っているときの方が花梨ちゃんとよく似ている。 はじめて見る外山くんの笑顔に、思わず見入ってしまう。
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