それは見世物小屋

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それにしても――。 「ちょっと笑い過ぎじゃない?」 口を尖らせると外山くんはまた笑った。 「だって、普通に埼玉って言えばいいのに。 やっぱり涼宮さんはおもしろい」 それから外山くんと私は、花梨ちゃんのことや外山くんの絵のこと、大学でのこと、上京してからの私の暮らしのこと――いろいろと話した。 今日の外山くんはよく話してくれる。 二人きりだから、話さざるを得ないだけかもしれないけれど。 少し前まではこんなこと考えられなかった。 私が会話する男の子は奏人と鳥谷くんだけで、奏人とは会話をするよりも言葉を失っているような時間の方が長い。 鳥谷くんとは芽衣子を間に挟んでの会話ばかりだった。 そしてそれは男の子に限らず、かもしれない。 私はいつも芽衣子の後ろにいるような、一歩引いた人付き合いばかりしてきた。 私なんかが話してもきっとつまらないだろうな、と。 けれど外山くんはこうして笑ってくれる。 私を真っ直ぐ見てくれる。 そしてその眼差しは、私にはすこし、痛い。
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