それは見世物小屋

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「私は……私が見た外山くんで、外山くんが私にしてくれたことで、自分でちゃんと考えたいから。 ホテルでは確かにそうなりかけたけど、そのあと外山くんはたくさん助けてくれたでしょ? 私、あんなに汚かったし、みっともなかったのに。 外山くんの過去よりも、私は……」 口ごもると、外山くんはちいさく「ありがとう」と言った。 たくさん泣いたあとの子どものような声で。 ああ、やっぱり外山くんは真っ暗闇にいる。 そこで、ひとりぽっちでいる。 膝を抱え、涙を堪えながら。 ひとりぽっちの瞳をじっと見つめると、頼りなさそうな私が映った。 「外山くん……わ、私に」 言いかけたところで、店員さんがにこやかにお茶のお代わりを勧めてきた。 差し出されたメニュー表から私は百合花籠(ゆりからん)を選んだ。 ティーポットの中ではらはらと広がっていく朱色の花びらを、ぼんやりと眺める。 「両手いっぱいの愛」――百合花籠の、花言葉。 こんな馬鹿な犬の両手いっぱいの想いに、意味や価値なんてあるだろうか。 出来ることなんて、あるだろうか。 「涼宮さん、さっき何か言いかけてなかった? 私に、って」 「あー……なに言おうとしてたか、忘れちゃった。 思い出したら言うね」 へへ、と笑うと、外山くんも少し頬をゆるめた。 嘘は吐きたくなかったのに、結局、私は外山くんにちいさな嘘を吐いてしまった。 ――外山くん、私に何か出来る? 胸のなかで膨れ上がった言葉を、ゆっくりとお茶で流し込んだ。 出来ることなんて、馬鹿な犬にはきっとない。
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