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「奏人……」
「すごい偶然。こういうことってあるんだね」
三日月のかたちの眼で、にっこりと微笑まれた。
どうして。
大学で姿を見掛けても、お互いに話しかけることも、眼を合わせることもしなかった。
それなのに、どうして今日は。
青い空の下、嫌な予感がひたひたと忍び寄ってくる。
「これ、外山だよね?
へぇ……確かによく見るときれいな顔してる。いいね、羨ましい」
奏人はにこにこしながら、まるで外山くんを値踏みするように眺める。
じっとりとした厭らしい視線。
それでも外山くんはぴくりともしない。
何も言わず、ホテルで見たときと同じ、のっぺらぼうの顔をしている。
様子がおかしい。
それに、まるで奏人と外山くんがはじめて会ったかのような奏人の口ぶり。
「二人は友達じゃないの?」
「今日はずいぶんおしゃれしてるね、理香ちゃん」
私の言葉に被せるように言われた。
にこにこした顔はまったく崩れない。
隙のない、完璧な笑顔。
――怖い。
生温かい汗が、背筋を伝っていく。
じわじわじわじわ。
何かが迫ってくる。
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