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煙草と灰皿、檸檬色の香水。
生々しい、薄っすらと赤い口紅の付いた吸い殻。
冷蔵庫とエアコンの微かな音だけが流れる。
「―――煙草」
「え?」
反射的に奏人の方を見てしまった。
何かを見抜いているような、追い詰めるような瞳。
胸が苦しいのに眼を離せない。
「部屋、煙草くさくない?」
「ううん……いい香りがする」
煙草よりも金木犀とオレンジの香りがする。
はじめて奏人を見たときから、ずっと覚えている香り。
「香水かな。この香り、好き?」
「……好き」
見つめ合ったまま口にした「好き」という言葉。
私はこれまで持っていた、奏人に対する強烈な感情の名を自覚した。
そして自覚した瞬間、その感情は私の中にぽっかりと穴を空けた。
幸せな気持ちになれるはずの感情。
けれど相手が奏人では、そうはなれなかった。
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