落下した十九の冬

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奏人はサイドテーブルから香水を取ると、自分の手首につけた。 手首は私の方へゆっくりとのばされ、首筋にぴたりと当てられる。 驚いて肩を上げると、奏人は「じっとしてて」と囁いた。 狡猾(こうかつ)で、罠を仕掛けるような瞳。 手首が首筋を撫で、指先が髪を弄る。 躰の奥がじんわりと疼いた。 甘い香りに酔わされ、そこは解放されたように濡れていく。 「これで同じ香りだね」 「……うん」 「ところで、理香ちゃんに聞きたいことがあるんだけど」 突然、射るような鋭い視線を向けられた。 (はりつけ)にされてしまい、動けない。 心臓だけがドクドクと早鐘を打つ。 「理香ちゃんは、俺のこと知ってた?」 正直に言えるわけがない。 いつも見ていたなんて、言えるわけがない。 「俺は理香ちゃんのこと知ってたよ」 「え……」 「俺のこと、いつも物欲しそうに見てたよね」 視界が一瞬で、ぐるんと変わった。 私を見下ろす奏人と天井が見える。
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