金木犀とオレンジと犬

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外山(とのやま)冴月(さつき)って奴、知ってる?」 ネックレスの留め具が引っ掛からず、焦る私に向かって奏人は言った。 こういう話をしてくるのは珍しい。 「背の高い、肌の焼けた人だよね」 「そう、それ」 まるで人をモノみたいに言う。 横目で奏人を見ると、睫毛で陰る瞳は相変わらず冷ややかだった。 ついさっきまで、奏人と私の躰は繋がっていた。 額から零れ落ちる汗を受け、お互いの悦いところを探り合った。 奏人の吐息をすぐそばで感じ、奏人の瞳には私が映っていた。 けれど躰が離れてしまえば、もうそこに私はいない。 こうしてベッドで隣り合って話していてもどこか空虚で、さっきまでのことが妄想だったのではないかと思ってしまう。 ゴミ箱のティッシュと湿ったシーツ。 下半身に残された異物感。 私はそれで現実を確認する。 「ネックレス、つけてあげる」 「いいよ、大丈夫。自分でやるから」 「理香(りか)ちゃんは不器用だから。貸して」 大きな手は私の手からネックレスを奪った。
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