落下した十九の冬

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やり方を反芻しながら舌を使い、唇を使う。 そうしているうちに大きな手が髪の中に潜り込んできた。 耳の形をなぞり、耳朶をくすぐられる。 思わずおかしな声が漏れた。 奏人の人差し指の第一関節だけで、私はうんと気持ちよくなれる。 なんて簡単で、なんて幸せだろう。 幸せだと思うのはもしかしたら間違いかもしれないけれど、今の私には間違いなくこれは幸せ。 「お前の髪、いいね」 長い人差し指にくるくると髪を巻き付け、奏人は言った。 「本当?」 「嘘は嫌い」 じわりと涙が瞳を覆っていく。 めんどくせぇ女にならないよう、俯いて眼を擦った。 顔を上げると奏人が口を開いた。 「そろそろ、こっちでしようか。 歯、立てたら殺すから」 「殺してくれるの?」 「お前って、やっぱり馬鹿」 奏人はため息交じりに言い、大きな手で私をそこへ導いた。
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