落下した十九の冬

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奏人は私を期間限定の女にしなかった。 『早く』 『遅い』 連絡はいつも突然で、待ち合わせに遅れているかのような二文字のメッセージで呼び出される。 もちろん呼ばれる理由はいつも同じ。 セックスをする。 何度呼ばれても、理由はこれしかない。 取り留めのない会話をしてセックスして、また取り留めのない会話をしてセックスする。 遅くても日付が変わる前には帰る。 これが奏人と私の関係。 デートもしない、一緒に食事もしない、一緒に何かを見て笑い合ったりもしない。 いつも同じ空間で、いつもセックスをして過ごす関係。 「好き」だとか「会いたかった」なんて言葉はそこにない。 そんな言葉を口にしてしまえば、きっと私はめんどくせぇ女になる。 好きという言葉の代わりに舌を這わせ、背中を掴み、腰を揺らす。 そうすれば奏人は気持ちよくなるし、私も気持ちいい。 関係を壊す言葉を口するより、ずっと効率的だと考えるようにした。
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