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ぐんぐんと流れる視界の中、喫煙所のマークを見つけた。
方向転換し、一直線に向かって扉をスライドさせる。
勢いよく引かれた扉はパシンと大きな音を立て、煙草を手にした人たちの視線が一気に私に向けられた。
いない。
奏人はそこに、いなかった。
肩で息をしながら、他にも喫煙所はないかロビーで聞こうと考えた。
入れ違いでパーティー会場に戻っている可能性もある。
鳥谷くんに電話をしてみようか。
「理香ちゃん、どうしたの?
すごい勢いで開けるから、びっくりしたよー」
「田中ちゃん……」
「煙草、吸うんだね。ちょっと意外。
あ、それとも誰かを探しに来たの?」
久しぶりに会った田中ちゃんは、ぱっちりとした大きな瞳を更に大きくさせながら聞いた。
額を伝う汗を指先で払い、息を整える。
「奏人を、藤代くんを探してて」
「さっきまでいたよ。
パーティー会場がうるさくて疲れるって言うから、二階のバーに避難すれば? って勧めたけど、行ったかどうかはわからないな。
理香ちゃんって、奏人と知り合いだったの?」
「ありがとう、じゃあ」
ふたたたび勢いよく閉めた扉は、やはり背後でパシンと大きな音を立てた。
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