一段飛びで会いに来て

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二階のバー。二階のバー。 頭の中で復唱し、階段を探す。 分厚い深紅の絨毯にヒールが沈み、つんのめりそうになる。 こんな折れそうなピンヒールなんて履いてくるんじゃなかった。 逸る脚にブレーキをかけ、急いで両足を引っこ抜いた。 開放された十本の指で絨毯を蹴り飛ばし、風を切る。 だだっ広いホテルにじりじりと苛立ちが募る。 階段はどこ、奏人はどこ。 ようやく視界の端で階段を捉えた。 仄暗い中で煌々と灯りを放つ、ゆるやかな螺旋階段。 その先には、ずっと焦がれていた背中があった。 「か、かなとっ……!」 この世界で一番特別な名前を叫ぶ。 ぴくりと微かに上がる肩。 長い脚は一瞬躊躇(ためら)ってから、くるりとこちらを向いた。 威嚇するような眼差しが私を貫く。 そしてなぜか、ぽっかりと口が開いていた。 まるで何かに驚くかのように。
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