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「理香ちゃん……まさか靴、履いてないの?」
頬が一瞬で染まり、羞恥でいっぱいになった。
誤魔化したくても、手にしたピンヒールも、ストッキングしか履いていない足元も、もう隠しようがない。
それでも爪先にぎゅっと力を入れ、縮こまらせてみる。
「これはちょっと事情が、あって……」
階段をほとんど上がりきっている奏人に向かって、言い訳にもならない言葉を口にした。
必死に駆け回って奏人を探してた、なんてばれてしまったら、「めんどくせぇ」と立ち去られてしまう。
「ふぅん……俺に話しかけていいの? 外山に怒られない?」
「え、冴月くん? 冴月くんは怒らないよ」
「名前で呼んでるんだ。仲よくやってるんだね、三年も」
「仲はいいと思うよ。
だけど、それは兄妹みたいな、そういう関係だよ」
冴月くんと私は仲を深めた。
花梨ちゃんもたぁくんも芽衣子も鳥谷くんも、つき合っていないのが不思議だ、と言うくらいに。
私のお母さんなんて、すっかり冴月くんが彼氏だと思い込んで、「早く外山くんにお義母さんって呼ばれたいわ。でもね、キスまでよ。授かり婚っていうの? そういうのは、お父さんが倒れちゃうから」なんて言うので、私は半ば怒り気味に関係を否定した。
確かに一度だけ、キスに近いことはあったかもしれない。
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