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「理香ちゃんって、もしかして男女の友情とか信じちゃう人?」
「あると思うよ。男女の友情だって」
「相変わらず馬鹿だね。ないから、そんなもの」
冴月くんと私の関係を否定するかのように言われ、哀しいような悔しいような気持ちになった。
奏人にはなくても、男女の友情を築ける人だっているはずだ。
「あ、そうだ。冴月くんの妹さんが結婚することになってね、婚姻届の証人になったの。冴月くんと二人で」
「は?」
「妹さんたちの交際記念日が今日で、今日入籍しようってことになってね。
冴月くんがなんとか飛行機のチケットを取って帰国して、それで今朝、婚姻届に署名してきたの」
必死になってそう言うと、何が言いたいわけ? と言わんばかりの呆れ顔を奏人は返した。
考えてみれば奏人は冴月くんが外国へ行っていたことだって知らない。
意味がわからないのは当然だ。
私は懸命に言葉を探す。
「だから、つまり……冴月くんと私はそういう、家族っぽいつき合いっていうか」
言いながら、自分でも少し、訳のわからない理屈を言っているような気がしてきた。
それでももう引っ込みがつかず、「とにかく、奏人が思うような関係じゃないよ」と締め括った。
「それなら次は、理香ちゃんと外山の番だね」
「え?」
「お幸せに」
私に背を向け、奏人は階段を上がりだした。
「待って、行かないで」
「靴、履いたら?」
「やだ、待って」
容赦なく小さくなっていく背中。
普通に階段を上がっていては追いつけない。
慣れない一段飛ばしで、階段を駆け上がる。
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