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冴月くんのように手を差し伸べてくれなくたっていい。
私は自分で、自分の脚で立ち上がるから。
私の言葉を聞いてくれれば、それでいい。
「い、行かないで……。お願い、行かないで。話しを聞いて」
震える両膝に力を入れ、無理やり立ち上がった。
私を見下ろす瞳が狼狽るように揺れる。
生まれたての小鹿だって、もう少し格好がついているだろう。
それでも、なりふりなんてかまっていられない。
私はまだ痺れの残る指先でワンピースの裾を掴み、一気に捲り上げた。
二つ目の穴を開けられた日から、躰の真ん中でずっと輝いていたシャンパンカラー。
奏人と私の時間が、妄想でも幻でもなかったという証。
閉じたくなんてなかった。
奏人にリードを手放されたって、私はずっと
「ペットロスにはさせない。
めんどくせぇかもしれないけど、私はずっと、ずっと、奏人が……奏人のことが」
好きと言いたいのに、膨れ上がってしまった想いが口を塞いだ。
破裂しそうなくらい胸がいっぱいになり、涙が言葉よりも先に込み上げる。
間違いなく、これはめんどくせぇ告白。
それなのに、大粒の涙が零れ落ちるよりも先に、懐かしい腕は私を抱いてくれた。
引き寄せられた背骨から、全身が痺れていく。
「ああ、もう……本当に、本当に、とんでもない馬鹿」
罵倒しているというのに、その声はとてもやわらかく、私が知っている地球上の何よりも甘やかだった。
冷たく熱い二つの瞳が私を捕まえる。
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