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久しぶりのせいか、切羽詰まっていたせいか。
重ねようとした唇はズレてしまい、二度、三度、頬から唇にかけて短い口づけをしてからぴったりと唇を重ねた。
やっと重ね合った唇と唇。
やわらかな皮膚と粘膜。
奏人の熱が私を溶かし、たちまちかたちを失ってゆく。
一瞬たりとも眼を閉じたくないけれど、瞼はもう、とろけきってしまった。
三年ぶりの蛇の舌が、上唇と下唇の隙間からするりと潜り込む。
咥内をたっぷりとくすぐられて腰が仰け反れば、すぐに抱き寄せられた。
久しぶりだね。再会を悦ぶように蛇の舌を追いかける。
ふたつの舌はすぐに溶け合わさり、境界線はもうなかった。
完熟した林檎の蜜のように絡み合った唾液。
高い密度と糖度。
下唇をぱくりと食まれ、胸を震わせていると、赫い唇は、ふ、と短い息を漏らして離れていった。
濡れてひかるその赫い唇に、もっと触れたい。
どこまでも追いかけたい。
「手、下げて」
微睡む私に奏人は冷たく言った。
「手?」
「下着、丸見え」
「あっ……」
「俺、痴女とつき合う趣味はないから」
痴女。新しいあだ名をつけられてしまった。
馬鹿な犬と痴女では、どちらの方がいいだろう。
夢見心地の頭では判断がつかない。
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