金木犀とオレンジと犬

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「理香ちゃんが汚したんだから、理香ちゃんがきれいにしないとね」 背後から耳元で囁く声に酔いが回る。 静かに頷くと、奏人は音を立てて首筋に口づけをした。 半開きになった私の口から、だらだらと唾液が垂れていく。 言われるがままに指の付け根から爪の先まで、舌を絡めて舐め上げた。 舌を尖らせ、皮膚と爪の間まできちんときれいにする。 ツンとした香りが鼻を突く。 「お前って本当に犬みたい。 利口な犬じゃなくて、馬鹿な犬」 馬鹿な犬でいい。 馬鹿な犬で構わない。 奏人に飼ってもらえるのなら。 「首、けっこう目立つな」 奏人はまた首筋を強く吸い上げた。 このキスマークは愛の証や独占欲なんかじゃない。 私が駄目だと言うからする。 それだけのこと。 もしも私がキスマークを付けて欲しいとせがんだら、奏人はきっとキスマークを残さない。
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