金木犀とオレンジと犬

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散らばった服と下着をかき集め、急いで身に着ける。 このままだと講義に間に合わない。 せっかくブローした髪はもう台無しだし、メイクもきっと崩れてるだろうけど時間がない。 「どうしようどうしよう……」 言ったところで何がどうなるわけでもないのに、つい口から出てしまう。 「もう諦めたら?」 「そういう訳には……。 奏人も講義あるんじゃないの?」 「パス。もう体力使い切った。 どっかの犬がたくさん欲しがるから」 身支度する私の横を通り抜け、奏人は冷蔵庫から缶ビールを取り出してプルタブを引いた。 勢いよくビールを喉に流し込む。 まだ夕方にもなっていない。 どこまで自由なのだろう。 奏人は何にも囚われず縛られず、人の心だけを縛っていく。 無意識に縛られた縄はしっかりと食い込み、小指が入る隙間もない。 「……じゃあね、奏人」 「ばいばい、理香ちゃん」 私をまったく見ず、奏人は口先だけで見送った。
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