金木犀とオレンジと犬

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ドアの閉まる音が胸に響く。 冷たい風が鼻先をツンと刺し、嫌になるくらい頭がクリアになる。 また、やってしまった。 仄暗い雲の隙間から零れる光が私を責め、通りを歩く小学生の笑い声に嘲笑される。 名前のない犯罪を犯したような罪悪感。 けれどその罪悪感は何にも活かされない。 階段を何段か降りると、ベッドサイドのテーブルにピアスを忘れたことに気が付いた。 奏人はピアスに気付くだろうか。 奏人よりも先に、どこかの女の子がピアスに気付くだろうか。 胸の奥がどろりと歪む。 きれいに割り切れるほど大人にもなれないし、鈍感にもなれない。 ―――ばかだなぁ、理香は。マゾ? 友達はそう言った。 呼び出されたらいつでもアパートへ行き、馬鹿だの犬だの言われる。 きっと私は馬鹿でマゾだ。 学習能力なんてものがなければ、問題解決能力もない。 奏人の言葉や仕草、指先一つで簡単に揺らいでしまう。
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