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いつも余裕なのは奏人、必死なのは私。
今でこそ私も少しは反発するようになったけれど、それでもどちらが上で、どちらが下かは変わっていない。
肩を並べることは、きっと永遠にない。
唾を飲み込み、階段を一気に駆け下りて駅まで走った。
若い女性もサラリーマンも、小さな子どもも、みんなが私の方を振り返る。
きっとパンプスのヒールは痛んだけれど、そんなものは修理に出せばいい。
直せるものは直せばいいし、直らないものは買い直せばいい。
そういった術がないものは救いようがなくて厄介だ。
私は電車に飛び乗った。
肩で大きく息をする私に、乗客からの冷たい視線が刺さる。
居たたまれなくなり、俯いて小さく震える膝に手を当てた。
膝を抑えつける奏人の手の感触が、まざまざと蘇ってくる。
次はいつ会えるだろう。
私も奏人と一緒にサボってしまえば良かった。
そしたらまだ、あの腕の中に居られた。
「―――あっ」
電車のドアが閉まった。
下車し忘れた私は、やっぱり大馬鹿者だった。
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