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「この子はわしの家で預かろう。」
もし、帰る場所がないというのならこのままここへ置いてやろうと呑気に言う村長に村人たちは思わず村の外から来たよそ者を信用出来ないと口々に喚く。
「助けを求める少女を見殺しにするのか?この村でお主らはそう教わり生きてきたのか?」
少女を抱き上げながら村長はゆっくりと村人達に問う。
「なぁに、お前さんたちには迷惑はかけんよ。もし、この子が村に危害を加えようものならわしがどうにかする。まだ、こんな子どもに負けるほど衰えてはないからの。」
村長は黙り込んだ村人に微笑み、ゆっくり休むようにと家へ帰るように促した。村人たちはまだ完全には納得しきれていない様子だったが、村長に気をつけるようにと声をかけながらそれぞれの家へと戻っていった。
村長はそれを見届けると少女と共にその場を後にした。
この村には城にいるような回復職(ヒーラー)はいない。
ここで病人や怪我人が出ると昔、城で医者をやっていたという老夫婦に診てもらっていた。
薬草を自ら栽培して調合した薬品を使っており、ヒーラーみたいにすぐに治療が終わる訳では無いが村では頼りにされている老夫婦だった。
村長はその場を後にしたそのままの足で、老夫婦の元へと歩みを進めていた。
まだ日も昇っていないこの時間に彼らを起こすのを躊躇うが少女の容態が分からない今、すぐにでも見てもらうべきだと判断しての事だった。
傷に響かないようにとゆっくりと歩みを進めていると腕の中の少女がピクリと体を動かした。
そして彼女はゆっくりと重い瞼を上げた。
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