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リント老夫婦の家へと向かっている最中、村長の腕の中で目を開けた少女はその瞳に村長を映した瞬間声を上げた。
「赤ちゃんが、赤ちゃんがお腹の中にいるの。ずっとお腹を守ってたけどあたし気を失って...。この子に何かあったらここまで逃げてきた意味がなくなっちゃう。あたしの生きる希望が消えちゃう。
ねぇ、お願い。この子を診て貰えるような所に連れて行って。お願いよ...。」
少女は村長の服をぎゅっと握り何かを必死に堪えるように話した。
この子はまだ子どものように見えるのに、こんな小さな身体に新しい命が芽生えようとしているのか?この子の親は?逃げてきたってどこから?
沢山の疑問が浮かんでは言葉にならずに積もっていく。
「...昔、城で医者をやっていたという老夫婦の元へ連れていく。少しの辛抱だ。もう少しだけ頑張っておくれ。」
「っ!ありがとう...ございます。」
少女は村長の言葉を聞いて自らの腹を守るようにぎゅっと抱き締めた。
その姿を見て村長は少しでもその体に負担をかけないよう気をつけながらスピードを上げて山を下った。雪がチラつく季節だと言うのに汗が止まらず吹きでてくる。
こんなに激しく動いたのはいつぶりだっただろうか。まだまだ動ける自分の体に素直に感心する。
かじかんでいた手足が普通に動くようになり、滝のような汗を滴らせようやく老夫婦の元へとたどり着いた。
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