2人が本棚に入れています
本棚に追加
川島先生へ
さて、先生は今、どこにいるのでしょうか。
せっかくの手紙がこんな書き出しになってしまうのも、私が先生の住所を四年前までしか把握していないからです。私が塾に通っていた中一から中三までの三年間は年賀状をやり取りしていましたが、高校生になってからは止まってしまいました。ただの大学生の塾アルバイトと女子中学生の生徒にすぎなかったのですから、仕方ないかもしれません。先生と私の間には、ラブロマンス的な何かも別にありませんでしたし。とはいえ、個別指導塾なので、先生と生徒の関係はわりあい深かったはずです。
一年生のときに塾に入ってから三年生のときに合格するまで、ずっとつきっきりで見てもらいました。気づけば私、もう十九歳です。ラストティーンですよ。
先生が社会人になってから引っ越しをていて、この手紙が届かなくてもそれはそれでよしとします。新天地で頑張ってる証ですからね。ではこれから、思い出話やらなんやらを、つらつら書いていこうと思います。私の話の長さは、手紙になっても変わりませんから。
そもそもどうしてこの手紙を書いたかというと、最近先生のことを思い出すことが増えたからです。秋の終わりって、枯れ木を眺めながらぼんやり物思いにふけったりしません? その流れで、先生のことを思い出しています。
実は、手紙じゃなくてインスタのDMを送ろうかとも考えたんですよ。「なんで野村がおれのインスタを知ってるんだよ」というツッコミの幻聴がしたので、特定までの経緯を記しておきましょう。別に難しいことではなくて、先生が所属していたサークルのアカウントの、フォロワー一覧から探しただけです。先生のサークル、「マジック同好会ピジョン」ですよね。「けっこう周りに貢献してるサークルなんだよ」と先生が誇らしげにするたびに、ウソだぁって思ってました。でも、活動内容見てみたら、地域の子ども会で披露してたり、老人ホームに出向いてたり、めちゃくちゃ貢献してるじゃないですか。疑っててすみません。フォロワー一覧から探すのは地道な作業でしたが、オンライン授業の片手間にやりました。教授が動画内でえんえんとお孫さんの話を始めるので、ヒマになっちゃったんです。先生のアイコン、予想通りバイクでした。趣味は相変わらずですね。
さて、ここまでやっておいて、結局手紙にしたのはなぜかって話です。それは、前に先生が手紙についてあつ~く語っていたからですよ。私が中一、先生が大一のときです。バレー部の練習でへとへとになって塾に行ったら、ホワイトボードに前の人の授業内容が書かれたままになってたんです。Kとか先生とかピンと来なくて、これってなんですかって聞きました(疲れてたから、授業じゃなくて雑談に持っていきたいっていう下心もありました。えへへ)。ちょっと教えてくれるだけでよかったのに先生は『こころ』についての熱弁を始めて、変なスイッチ押しちゃったなー、と圧倒されました。物語後半はまるまる先生からの手紙になってるっていう話のときに、手紙は思いがこもるからいいものだって言われたんです。ラブレターもらったことでもあるんですか、とからかったら悔しそうな顔をされました。
この日、私は先生が教育学部の国語教師志望であることを初めて知りました。……今更ですが、こころに出てくる先生と、川島先生とで書き方区別つけたほうがよかったですね。先生先生書きすぎて、ゲシュタルト崩壊起こしそうです。
最初のコメントを投稿しよう!