ふたしかな手紙

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 今の私は、何の因果か教育学部で学んでいます。このあいだ、学部の一年生対象のインターンに参加しました。教育実習の予行練習のようなもので、一日だけ中学校で授業の様子を見せてもらったんです。私にできることはほとんどなくて、ひたすら先生方や生徒たちのあとをくっついて回ってました。生徒からの質問で、「彼氏いるの」と「部活何やってましたか」はド定番なので答えられたんですよ。ただ、「どこのコスメブランド使ってますか」は、すぐに答えられませんでした。ドラッグストアで見つけたやっすいプチプラブランドだよとも言えなくて、デパコスの名前を挙げてしまいました。彼女たちの目を輝かせることは成功しましたが、私の心はズタズタです。見栄張っちゃいましたね。  あと、教育学部ってめちゃくちゃ忙しくないですか? 先輩の話では、二年になるともっと大変って聞いてすでにびくびくしています。友だちの友だちは、某有名私立大に(コネで)入ったらしいんですけど、後期の授業が週に五コマしかないんですって! 私が一日で四連チャンとかやってるとき、その子はきっと楽しくお買い物とかしてるんですよ。大学生ってこわいですよね、やだやだ。  ここまで書いておいて届かないかもと考えると、さびしいですね。届かない可能性が高いのならば逆に、恥ずかしいことも書いておきます。  正直言うと、先生の存在は高校に入ってからきれいさっぱり忘れてました。部活は楽しかったし、友だちも増えましたし。なんと人生初の彼氏もできましたし! なのに、大学生になって思い出すのは、元カレじゃなくて先生なんですよ。こわくないですか?  もし中学のときのわたしが先生に恋してたら、どうなっていたんでしょう。まあ、どうにもならなかったんだろうな……。  万が一この手紙が届いていたら、恥ずかしいので返事はよしてください。そのかわり、素敵なスイーツギフトでもよこしてください。わたしがしょっちゅう連呼していたスイーツは何だったか、覚えていますよね?  では、届くかわからないこのふたしかな手紙も、このあたりにしておきましょう。  先生の明日が、いいものでありますように。  野村 梨乃
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