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道具屋の営業時間
間もなく5時になる。
窓の外は日が沈み、夕闇が迫っていた。
もう店内に客はいなかった。夜になるとふつうの人間は家に帰る。
だから店じまいの準備をする。
いつも通りの1日で、可もなく不可もなかった。稼ぎもいつも通り。でも妻と息子の3人ならつつましやかに暮らせる。
今日の晩飯は何だろう。まっすぐに家に帰ってもいいし、寄り道して飲んで帰るのもいい。喉が渇いた気がするから寄り道してから帰ろう。馴染みの居酒屋でビールを一杯。それから家に帰ればちょうど夕食になる。そうすることによって、支度を手伝わずに食事ができる。
なかなか良いアイデアだ。フッと笑みを浮かべる。
そんなことを考えながら、棚に置いた商品を店のバックヤードに片付け、稼いだ分を金庫にしまう。5時をすぎると夜の道具屋、別名まとめ売りの道具屋が開店する。だから夜の道具屋が働きやすいようにしていた。ふつうの道具を邪魔にならない場所にしまうだけだが。
いつも通りに片付け終わると5時になった。
しかし夜の道具屋が来ない。
夜の道具屋は良く言えば大らかな性格をしている。俺のように1回分を紙に包んだりしない。仕入れた商品をまとめて売る。店に客が来て注文をするとカウンターにドンと仕入れたままの商品を置く。
薬草などの1回の使用量が多い人や少ない人はまとめ売りの方がいい。自分で使いたい量を調節できる。俺は薬師が一般的と定めた量を正確に1回分包んでいる。葉の大きさにはばらつきがあるけれど、それを道具屋のカンで全て同じにしている。
それが良い人は昼間のふつうの道具屋に来る。
夜の道具屋は大ざっぱなので、値段よりも多く入っている時もあるけれど少ない時もある。だいたいは多いらしい。しかし運悪く少ない時は文句を言っても仕方がないことを常連は知っているので黙っていることが多い。
それでも不思議と憎まれない。
とにかく大ざっぱで、たまに時間も大ざっぱになる。
俺は大家から朝の9時から夕方の5時までこの場所を借りているだけで、夜の道具屋は別の店である。だから、引継ぎなどをしなくても良い。
でも、いつも夜の道具屋が来るのを待っていた。
店に人がいなくなると物騒だからだ。昔から王都にいる住民は顔なじみだが、王都は王がいる都なので、人の往来が激しい。思いもよらない客もたまにいる。
店を空にしてそういう客が来た場合、思いもよらない事態になってしまうかもしれない。だから俺は待っている。人がいるだけで空間は秩序が保たれる。人の目があると言うだけで無秩序は消える。
どうしようもない突発的で防ぎようがない事象はあるかもしれない。でもそれはよっぽどな場合で、大抵は穏やかに緩やかに何事もなく防げる。防いだことに気付けない場合だってある。
だから無駄ではない。だから俺は待っている。約束をしているわけではないけれど、5時から開店するはずの夜の道具屋を。
ほとんどの場合は時間通りに来るのに、今日は来ない。
こういうことは前にもあった。でもそれは寝坊をしただけだった。
おおらかなので、気持ちよく寝てしまって、気づくと5時時を過ぎていたそうだ。他の理由もないわけではない。いろいろと興味を持つヤツなようで、夜の道具屋が遅れるのはそれほど珍しいことでもない。
目立たないところにある上に登る階段を見る。
夜の道具屋は2階に住んでいる。通常ならここから降りてくる。でも降りてくる気配がない。
夜の道具屋はものぐさだった。だから大家と交渉して、道具屋に住んでいる。いざとなったら2階に向かってひと声かけ、出てしまってもいいかもしれない。でも、それはできるだけやりたくない。
あと少しくらい、待ってみよう。
それほど深刻に思わず、帰り支度をする。
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